伊藤貫が語る「イラン戦争」の真相──アメリカ一極覇権の終焉と日本が直面する危機

イラン戦争とアメリカ覇権の終焉を象徴するチェス盤、アメリカ国旗のキングが傾きイラン国旗のルークが堂々と立つ地政学的構図、ペルシャ湾の夕焼けと軍艦のシルエットが背景に広がる
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はじめに──アメリカが始めた「最悪の戦争」

国際政治アナリストの伊藤貫氏が、自身のセミナー動画でイラン戦争の本質について語った。伊藤氏はワシントン在住の立場から、この戦争を「最近アメリカが起こした戦争の中で最悪」と断言し、「アメリカが世界覇権(グローバル・ヘジェモニー)を失う大きなモメンタムになる」と警告する。

伊藤氏の見立てでは、外見上はイランが圧倒的な爆撃を受けて不利に見えるものの、実際にはイランが主導権を握っている。この戦争をやめるかやめないか、いつまで続けるかを決められるのはイラン側であり、アメリカにはそれを止める手段がない。ホワイトハウスもペンタゴンも国務省も「現在どうしていいのか分からない状態だ」と伊藤氏は語る。

米軍と海兵隊のイラン上陸は軍部が拒否しており、トランプは口先では沖縄から海兵隊2500〜5000人を送り込む、第82空挺師団など数万人規模の陸軍を投入すると言っているものの、実際にはやりたくないのが本音だという。仮に5万人を上陸させてもベトナム、イラク、アフガニスタンの二の舞になるだけで、長期のゲリラ戦に陥り勝てないことはトランプ自身も理解している。その結果、トランプは毎日のようにイランに「やめてくれ」「話し合いに応じてくれ」と泣きついている状態だが、イランは73年間にわたるアメリカへの深い恨みを抱えており、簡単には応じない。

一方のイランは、2003年のイラク侵攻を目の当たりにして以来、23年間にわたりアメリカとの戦争を周到に準備してきた。「次は我々が標的にされる」と見抜いたイラン政府は、空軍・海軍での正面衝突を最初から避ける非対称戦略を採用した。安価なミサイルとドローンを国中の数百か所の地下施設に分散配置し、アメリカにもイスラエルにも破壊できない態勢を構築している。元駐イラン大使の斎藤氏も「イラン人は非常に論理的で頭がいい。メディアが描く狂信的な原理主義者というイメージとは全く違う」と評しており、伊藤氏もこの見解に強く同意している。

イラン戦争を引き起こした「3つの背景」

伊藤氏は、この不必要な戦争が始まった裏側にある3つの説を紹介した。いずれも英語で言う「プラウジブル(もっともらしい)」な議論だという。

第一の説は、エプスタイン文書問題からの話題逸らしである。文書にはトランプの名前が何百回、何千回も登場するとされ、その多くが黒塗りになっている。未成年女性との関係を示す記述もあるとされるが、真偽は不明だ。この追及をかわすために突然イラン戦争を始めたという見方である。

第二の説は、モサド(イスラエル情報機関)によるトランプへの圧力だ。エプスタインはモサドと緊密な関係にあったことを自ら自慢しており、ニューヨークの自宅マンションにモサドの協力で盗聴器やビデオを設置していたとされる。世界中の数千人の著名人を未成年女性との性的場面を撮影して脅迫し、そのビデオのコピーをモサドに渡していた。トランプもこのシステムに引っかかっており、ネタニヤフを恐れているのはモサドに弱みを握られているからだと伊藤氏は分析する。実際、1996年にビル・クリントンがネタニヤフと初めて会談した際、ネタニヤフの傲慢な態度に顔を真っ赤にして「一体どちらが超大国なのか」と憤慨したエピソードは、ワシントンでは広く知られている。

第三の説は、ネタニヤフ首相の個人的動機である。ネタニヤフは6年前から3件の汚職で起訴されており、有罪判決を受ければ10〜13年の収監が見込まれる。首相である限り裁判を先延ばしにできるが、今年10月までに実施される総選挙で負ければ、ほぼ確実に刑務所行きとなる。アメリカを巻き込んでイランを攻撃したという「手柄」を掲げて選挙に勝つことが、彼にとっては刑務所を回避する唯一の道だった。イスラエル国民の8〜9割がイラン戦争を支持している現状を見れば、この動機は明白だ。伊藤氏はこの説を「陰謀論ではなくほぼ事実」と断言した。

決定的なのは2024年12月28日のエピソードだ。ネタニヤフがフロリダのマーアラゴを訪れ、当時まだ戦争に消極的だったトランプに対し、イランの核問題の外交的解決では「許さない」と一蹴し、軍事力でイランを完全に叩き潰すことを要求した。トランプはこの要求を飲み、1月中旬の開戦で合意したが、その後ネタニヤフの要請で2月末に延期されたという。

1996年「クリーンブレイク・レポート」が描いた30年計画

伊藤氏が特に重視するのが、1996年に作成された「クリーンブレイク・レポート」の存在だ。アメリカのユダヤ系知識人5〜6人がテルアビブのシンクタンクと共同で執筆し、ネタニヤフ首相に提出したこの報告書には、「イスラエルの勢力圏確立にはイラク・シリア・イランの3か国が障害となる。イスラエルは小国であるため自力では戦えないので、アメリカ政府を動かしてこの3か国を叩き潰す必要がある」と明記されていた。

この計画は着実に実行された。2003年、ブッシュ政権は「大量破壊兵器の証拠を握っている」という虚偽の理由でイラクに侵攻した。2011年にはオバマ政権がシリアのアサド政権転覆を企て、アルカイダやISIS(イスラム国)などのスンニ派テロ組織に資金と武器を提供してシリアを内戦状態に追い込んだ。そして2025年、ついにイランが標的となった。1996年のレポートに書かれた計画が30年の歳月をかけて完全に現実化した形だ。伊藤氏は「Googleで”1996 Clean Break Report”と検索すれば何千何万もの解説が出てくる。陰謀論でも何でもなく、中東情勢を知る人なら誰でも知っている事実だ」と強調する。

イランの切り札──アラブ産油国インフラへの攻撃能力

イランが戦略的優位に立つ最大の要因は、ペルシャ湾岸のアラブ産油国に対する攻撃能力だ。石油施設、天然ガス施設、発電所、海水淡水化プラントの4つのインフラを破壊されれば、アラブ諸国はたちまち機能停止に陥る。水がなく、6〜8月には気温が50度を超える環境で、冷房も水も電力もなければ人間は生存できない。中東経済全体が崩壊すれば、この地域に巨大な経済利権を持つアメリカも甚大な損害を被る。

世界最強を誇るアメリカ海軍ですら、ホルムズ海峡に空母やイージス艦を近づけられない状況だ。イランが毎日数百〜数千のドローンとミサイルで攻撃できる態勢にあるためで、迎撃コストは攻撃側の20〜80倍にも達する。安価なドローンとミサイルを何百発、何千発も打ち込まれれば、アメリカ海軍は持ちこたえられない。さらにイランの石油施設を破壊すればアラブ産油国の全施設も報復で破壊され、原油価格は1バレル160〜200ドルに高騰して世界経済が崩壊する。トランプですらこの選択肢は取れない。

伊藤氏は、イランが今年11月のアメリカ中間選挙まで戦争を継続する可能性を示唆する。共和党が大敗すればトランプの弾劾が始まり、後任のバンス副大統領は海兵隊員としてイラクに駐在した経験から中東への軍事介入に徹底的に反対の立場だ。イランにとってバンス政権の誕生は悪くないシナリオだという。

日本への警告──「拝米保守」の限界と核の傘の虚構

伊藤氏はモーガン氏との共著『アメリカ帝国の衰亡と日本の窮地』で、日本の安全保障政策の根本的な欠陥を指摘している。「拝米保守」と呼ぶ日本の保守主流派に対し、「アメリカにしがみついていれば大丈夫という単純な思考で国防政策を運営していいのか」と問いかける。

核の傘について、マクナマラ元国防長官、キッシンジャー元国務長官、バディ安全保障補佐官、ターナーCIA長官ら、実際にその職にあった人物たちが退任後に「同盟国を守るためにロシアや中国と核ミサイルの打ち合いをするつもりは全くなかった」と公式に認めている。伊藤氏自身も国務省・国防総省・CIAの幹部10数人と一対一で議論した際、全員が同じ回答をしたという。数発の核ミサイルの打ち合いだけで4000万〜6000万のアメリカ人が死ぬのだから、他国のためにそんなリスクを取るはずがない。

中国の武器・弾薬の生産能力は購買力平価で計算すると既にアメリカを数年前から凌駕している。イラン戦争でアメリカが消耗すればするほど、東アジアでの軍事的優位はさらに揺らぐ。伊藤氏は「アメリカの一極覇権(ユニポーラ・ヘジェモニー)はイラン戦争で終わった。リビア、シリア、イラク、イランと全くやる理由のない戦争を続けてきた結果であり、自業自得だ」と結論づけた。日本はアメリカの誤った覇権主義に同調し続けるのではなく、自主防衛と真の独立国家への転換を図るべきだと強く訴えている。

イラン戦争とアメリカ覇権の終焉を象徴するチェス盤、アメリカ国旗のキングが傾きイラン国旗のルークが堂々と立つ地政学的構図、ペルシャ湾の夕焼けと軍艦のシルエットが背景に広がる

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