世界は再び1930年代へ向かうのか? 伊藤貫が語る「次の世界を支配する者」と日本の生存戦略

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2026年10月17日に公開された「伊藤貫の真剣な雑談」第25回。国際政治アナリストの伊藤貫氏と日本文化チャンネル桜の水島総氏が、約75分にわたって世界情勢を論じた。

テーマは「次の世界を支配する者 ~そしてそれはどんな世界か~」。

米国の覇権、中東紛争、欧州の再軍備、中国の台頭、そしてAIがもたらす新たな権力構造。話題は多岐にわたるが、議論の根底にあるのは、戦後日本が信じてきた国際秩序と安全保障の前提が、もはや通用しなくなりつつあるという危機感だ。

とりわけ印象的なのは、伊藤氏が冒頭で現在の国際情勢を1930年代になぞらえたことである。

目次

国際秩序の崩壊。世界は1930年代に似てきた

伊藤氏は、現在の世界情勢について極めて悲観的な見方を示した。

1930年代は第一次世界大戦後に構築された国際秩序が崩れ、各国が自国の利益を優先し、やがて第二次世界大戦へ向かった時代だった。

伊藤氏によれば、安定した国際秩序が成立するには二つの条件が必要だという。

一つは「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」が維持されていること。もう一つは、主要大国の間で一定の価値判断が共有されていることだ。

歴史的な成功例として挙げたのが、1815年のウィーン会議である。

ナポレオン戦争後、メッテルニヒやカースルレーらが中心となって構築した欧州秩序は、大国間の勢力均衡と共通認識によって、1914年の第一次世界大戦まで約100年間、欧州全域を巻き込む大戦争を回避する枠組みとなった。

ところが現在は、この二つの条件が同時に失われているという。

米国、中国、ロシア、欧州諸国は、それぞれ異なる価値観と国家利益を掲げ、共通の秩序を形成できていない。

伊藤氏が問題視しているのは、単に米国の力が衰えたことではない。大国同士が何を守り、どこで妥協し、いかに共存するかという外交の基本原則まで失われつつあることだ。

トランプ政権とイスラエル。米国の外交を動かすのは誰か

対談の大きな部分を占めたのが、米国とイスラエルの関係である。

トランプ大統領は戦争を終わらせると訴えていたにもかかわらず、中東への軍事介入を続けている。

伊藤氏は、こうした方針転換の背景に、イスラエルのネタニヤフ首相や親イスラエル・ロビーの強い影響力があると分析する。

特に注目したのが、米国の政治資金と選挙制度だ。

米国では大統領選挙だけでなく、連邦議会選挙の予備選挙段階から、多額の政治資金が候補者の当落に影響する。

伊藤氏は、親イスラエル政治団体AIPACなどが候補者選定や資金支援を通じて、米国の外交政策に大きな影響を及ぼしていると指摘した。

また、アイザック・クリフトンとイアン・ラスティックによる著作を紹介し、米国国内でもイスラエル政策への批判や、政治的影響力のあり方を問い直す動きがあることに言及した。

ここで区別すべきなのは、政治団体によるロビー活動と、民族・宗教集団全体の行動である。

対談ではユダヤ人全体による支配という踏み込んだ発言もあったが、政治献金や政策形成への影響力を検証することと、民族全体に共通の政治的意図があるとみなすことは別問題だ。

むしろ重要なのは、民主的に選ばれた政府の政策決定が、どのような資金、人脈、組織、制度によって左右されるのかという点だろう。

伊藤氏はさらに、米国の大学におけるイスラエル批判と表現の自由の問題にも触れた。

パレスチナを支持する学生運動への対応や、大学に対する政治的圧力は、民主主義国家における言論の自由とは何かを問い直す問題でもある。

欧州で進む再軍備。ドイツは再び軍事大国になるのか

続いて議論は、ウクライナ戦争によって変化する欧州の勢力図へ移る。

伊藤氏が特に注目しているのはドイツだ。

ドイツは長年、経済大国でありながら軍事面では抑制的な姿勢を維持してきた。しかし、ロシアとウクライナの戦争を契機に、再軍備を急速に進めている。

伊藤氏は、自動車産業の競争力低下や中国市場への依存がドイツ経済に重くのしかかる一方、防衛産業の重要性が増していると指摘する。

そして、軍事力の拡大がドイツのナショナリズムを再び強め、欧州内部の勢力均衡そのものを変えていく可能性を論じた。

さらに対談では、ドイツの将来的な核武装の可能性にも言及された。ただし、これはロシア側の情報機関による主張として紹介されたものであり、ドイツ政府の核武装方針が確認されたという意味ではない。

ここで見えてくるのは、ウクライナ戦争が単なる二国間の紛争にとどまらず、欧州各国の産業構造、軍事力、政治体制にまで影響しているという現実だ。

戦争が終わっても、以前の欧州にそのまま戻るとは限らない。

ウクライナ戦争と100年前に仕掛けられた「時限爆弾」

ウクライナ問題では、ロシアの作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンの歴史認識が紹介された。

伊藤氏は、ソ連成立期のウクライナ共和国の領域形成に着目する。

ソ連時代に設定された共和国の境界には、ロシア語話者が多く暮らす地域も含まれていた。この歴史的な経緯が、ソ連崩壊後のウクライナとロシアの関係を複雑にしたという見方だ。

伊藤氏は、ソルジェニーツィンがこうした民族・領土問題を将来の紛争につながる危険として警告していたと紹介した。

もっとも、対談で語られた「レーニンとトロツキーが将来の対立を意図して境界を設定した」という説明は、歴史的事実として確立されたものではない。

また、2022年の全面侵攻については、ロシアによる軍事行動という直接的な原因を見落としてはならない。

それでも、この議論には一つの重要な視点がある。

国家の境界、民族構成、歴史認識は、数十年あるいは100年という時間を経て、安全保障上の問題として表面化することがあるという点だ。

国際政治を理解するには、目の前の出来事だけでなく、国家形成にまで遡った長期的な歴史の視点が必要になる。

AIと巨大IT企業。国家を超える新しい支配構造

今回の対談で、現代的な問題として特に興味深いのがAIをめぐる議論だった。

水島氏は、パランティア・テクノロジーズ、ピーター・ティール、アレックス・カープらに触れながら、情報技術を保有する巨大企業が、国家の権限を上回るほどの力を持ち始めているのではないかと問題提起した。

20世紀まで、国家の統治権や言論の自由は、憲法や法律、議会制度などを通じて議論されてきた。

しかし現在、情報の流通を左右するのは政府だけではない。

Google、Metaなどのプラットフォーム企業は、投稿の削除、アカウント停止、情報の推薦や表示順位などを通じて、人々が何を知り、何を発信できるかに大きな影響を与えている。

さらに、AIと膨大なデータを組み合わせれば、情報分析や監視、軍事作戦の支援まで可能になる。

実際、AIは軍事情報の分析や標的の識別、意思決定支援などに利用されている。ただし、対談で語られたような特定企業による軍事政策全体の支配については、別途検証が必要だ。

重要なのは、近代国家が独占してきた権力の一部が、民間企業の技術基盤に依存し始めていることである。

今後の世界を支配するのは、軍事力を持つ国家なのか。それとも、情報とAIを掌握する企業なのか。

あるいは両者が結びつくことで、従来とは異なる権力構造が生まれるのか。

この問いは、動画のタイトルである「次の世界を支配する者」に直結している。

中国が望むのは、米国が中東で消耗し続ける世界

対談の後半では、中国の台頭が大きなテーマとなった。

伊藤氏は、習近平国家主席について、国内統治の強権性を批判しながらも、その戦略的能力を軽視すべきではないと強調する。

中国経済は不動産問題や内需の停滞など多くの課題を抱えているが、軍事力の整備は継続している。

造船能力、ミサイル生産能力、ドローン技術など、実際に装備を大量生産する力が、安全保障上の重要性を増しているという。

一方、米国は中東での軍事行動に大量の装備や弾薬を投入している。

伊藤氏は、米国が中東に軍事資源を振り向け続ければ、その分だけ東アジアに投入できる戦力が制約され、中国にとって戦略的に有利になると指摘した。

中国から見れば、米国が中東に関与し続け、軍事的・経済的に消耗することは好都合なのである。

また、ロシアと中国が独自の文明的価値観を掲げる動きについても議論が及んだ。

伊藤氏はこれを「文明主義(Civilizationalism)」という概念で説明する。

西洋的な普遍主義とは異なり、それぞれの文明が独自の歴史や価値観に基づいて国家を形成するという考え方だ。

ただし伊藤氏は、文明の独自性を尊重することと、それを理由に他国への覇権拡大を正当化することは違うと警戒する。

中国の文明主義が軍事的な拡張政策と結びつくならば、世界の安定を脅かす可能性があるという見方だ。

アメリカは本当に日本を守るのか

議論は最終的に、日本の安全保障へと収束する。

伊藤氏が一貫して問題視しているのは、日本が日米同盟に過度に依存していることだ。

日本政府は、日米同盟の強化によって安全保障が確保されるという考え方を基本としている。

しかし伊藤氏は、米国と中国の軍事的な力関係が変化するなか、米国が日本や台湾を守るために中国との大規模戦争を決断するとは限らないと警告する。

米国には自国の国益があり、軍事的な能力にも限界がある。

したがって、日本の防衛に関する米国の関与を無条件の前提とすることは危険だという。

これは、日米安全保障条約が無意味になったという話ではない。条約上の義務と、実際の危機における政治的判断や軍事的実行能力は分けて考える必要があるという問題である。

伊藤氏は、日本の政治家や外務官僚が、これまでの対米依存政策を根本から検証し直すべきだと主張した。

そのうえで、今の日本に必要なのは、目先の選挙に追われる政治家だけではなく、長期的な国家戦略を立案できる学者、戦略家、官僚の存在だと語った。

日本が生き残るための二つの国家戦略

対談の最後に、水島氏が日本の将来について尋ねると、伊藤氏は二つの具体策を提示した。

第一は、自主的な抑止力を持つことである。

伊藤氏は、日本独自の核抑止力に加え、大量のドローンと高性能ミサイルを保有する必要性を訴えた。

水島氏もこれに同調し、核搭載能力を持つ潜水艦戦力の構築という構想に言及する。

もちろん、日本の核武装には非核三原則、核不拡散条約、外交関係、費用、指揮統制など、極めて大きな政策上の課題が存在する。

しかし、ここで二人が重視したのは、日本自身が防衛に責任を持ち、他国から簡単には攻撃されない能力を構築するという考え方である。

第二は、米国、中国、ロシアとの等距離外交だ。

伊藤氏は、その参考としてインドの外交戦略を挙げた。

インドは米国との関係を強化しながら、ロシアとも関係を維持し、中国とも対立と対話を使い分けている。

いずれか一国に全面的に依存するのではなく、自国の利益を中心に外交関係を組み立てる。

伊藤氏は、日本も米国、中国、ロシアのいずれかを絶対視することなく、自主独立の立場から関係を構築するべきだと主張する。

ただし、地理的条件や中国との領土問題、日米同盟の歴史など、インドと日本の安全保障環境は大きく異なる。インド型外交を日本にどう適用するかについては、具体的な検討が必要だろう。

まとめ:次の世界を支配する者は誰なのか

今回の対談を通じて浮かび上がったのは、世界が単純な米中二極構造へ移行しているわけではないということだ。

米国は中東問題と国内政治に制約され、欧州では再軍備とナショナリズムが進み、中国とロシアは独自の秩序観を掲げている。

その一方で、AIと情報基盤を握る巨大企業が、国家の意思決定や国民生活に影響を及ぼす存在となりつつある。

つまり、次の世界を動かす力は、国家の軍事力や経済力だけでは説明できない。

政治資金、情報技術、産業基盤、歴史、文明的価値観。それらが複雑に結びつき、新しい国際秩序を形成しようとしている。

伊藤氏の分析には大胆な予測や、十分な裏付けを確認する必要のある主張も含まれている。それでも、国際政治を考える際に、誰が利益を得るのか、どこに実際の力があるのか、国家は何を自力で守れるのかを問い続ける姿勢は重要だ。

そして、日本に突きつけられている問いは明確である。

米国が守ってくれるという従来の前提が揺らいだとき、日本はどのような国家戦略を持つのか。

他国の政策に反応するだけの外交を続けるのか。それとも、自らの国益を定義し、自ら判断できる国家を目指すのか。

世界秩序の変化を前に、日本に求められているのは、単なる同盟強化や防衛費増額を超えた、長期的な国家戦略の再構築なのだ。


参考動画:新日本文化チャンネル桜

「【伊藤貫の真剣な雑談】第25回 伊藤貫×水島総『次の世界を支配する者 ~そしてそれはどんな世界か~』」

公開日:2026年10月17日

※本記事は対談内容を要約・再構成したものであり、登壇者の主張や予測がすべて客観的事実として確認されたことを意味しません。

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