核戦略の真実:日本人が知るべき核抑止と防衛の知識(前編)

核戦略の真実:日本人が知るべき核抑止と防衛の知識(前編)

核兵器によって生じたいわゆる軍事革命

核兵器の出現が国際政治に与えた影響は、軍事革命とも言える大きな変化をもたらしました。歴史的に見ても、軍事技術の進化が国際関係を劇的に変えたことがあります。中世のヨーロッパでは、防御が優位であり、堅固な城塞がその象徴でした。しかし、火薬と大砲の登場により攻撃が有利となり、国家の規模が大きく変わりました。

中世のヨーロッパにおいては、城塞や砦が非常に強固であり、攻撃側が槍や弓で攻めることは非常に困難でした。このため、防御側が圧倒的に有利な時代が続きました。しかし、14世紀後半から火薬と大砲の登場により、攻撃側が有利な時代に突入しました。これにより、城塞に閉じこもる小国の貴族たちは次々と敗北し、現在のような大規模な国家へと再編成される流れが生まれました。

このような軍事技術の進化は、国際政治のダイナミクスを大きく変える要因となりました。例えば、ナポレオンの時代には、国民を総動員する戦術と新たな武器の導入により、再び攻撃が有利な時代が到来しました。これにより、ナポレオンの大帝国が築かれましたが、その後は再び防御が有利な時代が続きました。

第一次世界大戦では、機関銃と塹壕戦の登場により、防御が有利な戦争となりました。当初、ヨーロッパ諸国は攻撃が有利であると信じて戦争に突入しましたが、実際には防御が圧倒的に有利であることが明らかになりました。

第二次世界大戦では、戦車や戦闘機の性能が飛躍的に向上し、攻撃が再び有利な時代となりました。特に、戦車と戦闘機を組み合わせたブリッツクリーク(電撃戦)により、ドイツ軍は短期間で広範な領土を制圧することができました。しかし、戦争の最終局面では、核兵器の登場により、再び防御が圧倒的に有利な時代が到来しました。

核兵器の出現は、国際政治のダイナミクスを根本的に変えました。第二次世界大戦以降、約79年間は防御が圧倒的に有利な時代となり、アメリカが巨大な経済力と軍事力を持ちながらも、領土拡張や勢力圏拡張に失敗したのは核兵器の存在が大きな要因です。核兵器は攻撃を抑止する強力な手段であり、北朝鮮のような小国でも数十発の核弾頭を持つだけで、アメリカのような超大国からの攻撃を防ぐことができるのです。

核兵器による抑止力は、戦争の形態を根本的に変えました。核戦力が相互に捕虜を取り合うような状況、つまりミューチュアルアシュアードディストラクション(MAD)の関係が成立し、大国同士の戦争が極めて困難になりました。核兵器の持つ防御的な特性は、核保有国同士が戦争を避ける要因となり、結果として戦争が抑止される構造が生まれました。

トーマス・シェリングというゲーム理論の専門家が指摘するように、現在の国際政治は相互に捕虜を取り合っている状態であり、ミューチュアルホステージシチュエーションとも言えます。アメリカとロシアが核戦争を始めれば、お互いの大都市を即座に壊滅させることができるため、戦争ができない状況が続いているのです。

核兵器には三つの主要な種類があります。飛行機で運搬される爆撃機型、地上に配置されたICBM(大陸間弾道ミサイル)、そして潜水艦から発射されるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)です。この中で最も破壊されにくいのが潜水艦に配備されたSLBMであり、敵国がこれを発見し破壊するのは非常に困難です。北朝鮮はまだこのレベルには達していませんが、移動式の核ミサイルを山中や地下トンネルに隠すなどして、偵察衛星からの発見を困難にしています。

このように、敵国によって破壊されない核兵器を持つ国は、アメリカのような超大国からも攻撃されないで済む状況を作り出しています。これが核による軍事革命、つまりニュークリアレボリューションの本質です。ニュークリアレボリューションが起きた結果、核保有国同士の戦争は非常に難しくなり、中小国も核を持つことで生き延びることができるようになりました。この結果、国際政治は多極化し、戦争がしにくくなると同時に、超大国の言いなりにならずに済む状況が生まれました。

以上のように、核兵器の出現によって国際政治のダイナミクスは大きく変わり、核による抑止力が戦争を防ぐ重要な要素となっています。

核兵器による平和

核兵器の出現により、国際政治のダイナミクスは根本的に変わりました。ニュークリアレボリューションと呼ばれるこの変化は、第二次世界大戦以降の国際情勢において、核兵器が平和をもたらす要因として機能するようになりました。これをニュークリアピース、つまり核による平和と呼びます。

シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は、核兵器がもたらす平和のメカニズムについて興味深い見解を示しています。彼によれば、核兵器は攻撃よりも防御に有利な兵器であり、ミューチュアルアシュアードディストラクション(相互確証破壊)の構造が国際関係をより平等に近づける効果を持っています。このため、核兵器を持つことは平和を維持するために役立つと述べています。

ミアシャイマー教授は、最も望ましい国際秩序は限定的でうまく管理された核拡散によって達成されると考えています。つまり、徐々に核保有国を増やしながら、その拡散を管理することで国際秩序の安定を図るべきだという主張です。彼は、日本が核兵器を保有することにも否定的ではなく、1990年代にクリントン政権がウクライナから核兵器を取り上げたことに反対し、ウクライナに核兵器を持たせたままにしておくべきだと述べていました。この意見は、ウクライナから核兵器を取り上げたことが現在の紛争の一因であることを示唆しています。

核の拡散は、一般にはネガティブに捉えられがちですが、ミアシャイマー教授やケネス・ウォルツ教授のような専門家は、核保有国が増えることで国際秩序の安定が促進されると主張しています。ウォルツ教授も、核兵器の拡散は国際政治の安定に寄与すると述べています。彼は特に日本が核を保有する必要があると指摘し、ウクライナと同様に、日本も核兵器を持つことで自身を防衛すべきだとしています。

ウォルツ教授は、「核兵器の拡散が国際秩序に与える影響」という論文で、核保有国が徐々に増えることが国際秩序の安定に寄与すると述べています。これは、日本が核兵器を保有することが、国際秩序の安定にとってプラスであるとする立場です。

現在の日本は、核を保有することで国際社会における自国の立場を強化し、他国からの侵略を抑止する必要があるとする意見もあります。しかし、アメリカは日本に核兵器を持たせたくないという立場を一貫して保持しています。これは、日本を不利な立場に置き続けることで、アメリカの国際的な優位性を維持しようとする戦略の一環と見られています。

核兵器の拡散がもたらす平和のメカニズムは、国際関係の平等性を高めることにあります。核保有国同士が戦争を避けることで、国際秩序が安定し、大規模な戦争が防がれるのです。これにより、核兵器は平和の維持に寄与する重要な要素となっています。

ミアシャイマー教授やウォルツ教授のような専門家の見解から、核兵器の保有は単なる攻撃手段ではなく、国際政治における抑止力としての役割が強調されるべきであることがわかります。これにより、核兵器は平和をもたらすための重要な手段となり得るのです。

必要最小限の核抑止論

核兵器の登場により、国際政治は大きく変わりました。ニュークリアレボリューション(核による軍事革命)とニュークリアピース(核による平和)を理解した上で、次に重要なのが「必要最小限の核抑止論」です。これは、どの国も最低限の核抑止力を持つことが、国際秩序の安定と平和を保つ上で有効であるという考え方です。

核兵器を持つ国は、自国が攻撃されるリスクを減らすために、必要最小限の核戦力を維持することが重要です。アメリカでは、この「ミニマムディテランス(必要最小限の抑止力)」という概念が、多くの核戦略専門家や国際政治学者によって支持されています。

ミニマムディテランスの基本概念

ミニマムディテランスとは、核兵器の保有数を最小限に抑えつつも、他国からの攻撃を抑止するための十分な能力を持つことです。具体的には、数百発の核弾頭を保有することで、相手国に対して重大な打撃を与える能力を確保することを目指します。

例えば、A国が1000発の核弾頭を持ち、B国が100発の核弾頭を持っているとします。通常の戦力では、A国が圧倒的に有利ですが、核戦力ではそう単純ではありません。B国の100発の核弾頭は、A国に対して十分な抑止力となり得るのです。A国がB国に対して攻撃を仕掛ける場合、B国が反撃してA国の大都市に甚大な被害を与える可能性があるため、A国は攻撃をためらうことになります。

ミニマムディテランスの実例と歴史的背景

ミニマムディテランスの概念は、歴史的にも実例があります。1962年、当時のアメリカ国防長官ロバート・ストレンジ・マクナマラは、核の拡散は危険であり、最小限の核抑止力は役に立たないと主張しました。しかし、彼が国防長官を辞めた後、どの国も200発から300発の核弾頭を持てば十分であると述べました。これは、彼の本音が反映されたものであり、最小限の核抑止力が実際に有効であることを示しています。

また、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領も、フランスに必要なのは最小限の核抑止力であり、数万発の核弾頭を持つアメリカやソ連のような大量の核兵器は不要であると主張しました。ド・ゴールは、核兵器は相手国に対して致命的な打撃を与えるために十分な数を保有すればよいと考えました。

ミニマムディテランスのメリット

ミニマムディテランスには多くのメリットがあります。第一に、核戦争のリスクを低減することができます。核兵器が相互に抑止力として機能することで、各国は核戦争を避ける動機が強くなります。第二に、軍事費を大幅に削減できる点です。大量の核兵器を保有する必要がなくなるため、国防費を節約し、その資金を他の分野に活用することができます。

さらに、ミニマムディテランスは国際秩序の安定にも寄与します。核保有国が増えることで、大国が一方的に他国を支配することが難しくなり、国際関係がより平等になります。これにより、中小国も自国の独立と安全を確保しやすくなります。

日本におけるミニマムディテランスの必要性

日本にとっても、ミニマムディテランスは重要な概念です。北朝鮮や中国、ロシアといった核保有国に囲まれている日本は、自国の安全を確保するために核抑止力を持つことが必要です。アメリカの「核の傘」に頼るだけではなく、自国の防衛力を強化することが求められます。

しかし、アメリカは日本に核兵器を持たせたくないという立場を一貫して保持しています。これは、日本を戦略的に不利な立場に置き続けることで、アメリカの国際的な優位性を維持しようとする戦略の一環と見られています。

結論

ミニマムディテランスは、核兵器を持つ国が最低限の核抑止力を保有することで、国際秩序の安定と平和を維持する重要な戦略です。日本においても、この概念を理解し、実行することが求められています。アメリカの「核の傘」に頼るだけでなく、自国の防衛力を強化し、国際社会における自国の立場を確立することが必要です。核戦略を理解し、適切に対応することで、日本は未来の安全と繁栄を確保することができるのです。

アメリカ政府の軍部が実行してきた核戦略理論

最後のテーマは、アメリカ政府の軍部がこれまでに実行してきた核戦略理論です。これは、アメリカがどのようにして核戦略を構築し、どのような理論に基づいて核兵器を運用してきたのかを理解する上で非常に重要です。1948年から現在までのアメリカの核戦略の歴史を追い、どのようにして核兵器が国際政治に影響を与えたのかを見ていきます。

1948年から始まる核戦略の歴史

1948年、アメリカは他国に対して大量の核攻撃を行う計画を立てていました。この戦略の一環として、ヨーロッパやアジアの70カ所に対して核弾頭を投下し、2800万人の人々を負傷させ、そのうち700万人を殺害するというシナリオが描かれていました。これは、核兵器がもたらす破壊力を最大限に活用し、敵国に対して圧倒的な打撃を与えることで、戦争を終結させるという考え方に基づいていました。

1950年代の核戦略

1950年代に入ると、アメリカは核戦略をさらに進化させました。1957年には、ソ連がアメリカに対して核による不意打ちを仕掛ける可能性があるという議論がなされ、核兵器の増強が求められました。これに対して、当時のアイゼンハワー大統領は、ソ連がそのような能力を持っていないとして、こうした議論を退けました。しかし、1959年にアルバート・ウィルステッターというネオコン(新保守主義者)の教授が、ソ連がアメリカに不意打ちを仕掛ける証拠があると主張し、核戦略の議論を過熱させました。

カウンターフォース理論の台頭

アルバート・ウィルステッターの影響を受けて、彼の弟子たちがアメリカの核戦略に大きな影響を与えました。これには、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官、ザルメイ・ハリルザド(アフガン大使)、リチャード・パール(国防省次官補)などが含まれます。彼らは、ソ連との核戦争が不可避であると主張し、カウンターフォース戦略(相手国の軍事目標を狙う戦略)を推進しました。この戦略は、核兵器を使って相手国の核戦力を先制攻撃し、無力化することを目指すものでした。

ハーマン・カーンの44段階のエスカレーション理論

ハーマン・カーンという核戦略家は、核戦争を44段階に分けてエスカレートさせる理論を提唱しました。彼の理論によれば、核戦争は段階的にエスカレートし、最終的にアメリカが勝利するというものでした。たとえアメリカ国民の3分の1が死亡しても、それは「受け入れられる損害」と見なされると主張しました。これは、核戦争の勝利を目指す極端な考え方であり、多くの批判を招きました。

ミニマムディテランスとの対立

アメリカの核戦略には、カウンターフォース理論を支持するグループと、ミニマムディテランス理論を支持するグループの対立がありました。ミニマムディテランス理論は、必要最小限の核抑止力を持つことで戦争を防ぐことを目的としています。一方、カウンターフォース理論は、大量の核兵器を保有し、先制攻撃で相手国の核戦力を無力化することを目指します。

MITの軍事学者バリー・ポーゼンは、カウンターフォース理論がペンタゴンで支持される理由を説明しています。彼によれば、ミニマムディテランスでは軍事予算が増えず、軍人の出世や組織の拡大に繋がらないため、カウンターフォース理論を推進する方が利益になると指摘しています。また、軍人にとっては、緊張状態を維持することで自己評価やプライドが高まるとしています。

現在の核戦略

アメリカの核戦略は、2024年現在でもカウンターフォース理論が主流です。これには、軍事的な緊張を維持し、予算やポストを増やすという軍部の利益が影響しています。しかし、ミニマムディテランス理論を支持する学者や専門家も多く、核戦略の正しい方向性についての議論は続いています。

例えば、チャンス・サルツマンという米空軍の大佐は、どの国も限られた数の核弾頭を持てば十分であると述べました。彼は、310発の核弾頭があればアメリカは他国からの攻撃を防げるとしています。また、アイゼンハワー大統領は、核戦争は勝利できるものではなく、自殺行為であると述べ、核兵器の持つ心理的効果を強調しました。

結論

アメリカの核戦略の歴史は、カウンターフォース理論とミニマムディテランス理論の対立の歴史でもあります。核戦争のリスクを低減し、国際秩序を安定させるためには、必要最小限の核抑止力を持つことが重要です。日本もこの概念を理解し、核戦略を見直すことが求められています。核兵器の持つ破壊力と抑止力を理解し、適切に対応することで、国際社会における自国の立場を確立し、未来の安全と繁栄を確保することができるのです。