イラン戦争が変える国際秩序|三極から七極構造への地殻変動

イラン戦争が引き起こす国際秩序の地殻変動を象徴する地政学的イメージ。中東を中心とした世界地図と覇権国家の象徴が描かれた編集系イラスト
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イラン戦争は単なる中東紛争ではない。1947年にアメリカが構築した戦後国際秩序そのものを崩壊させる可能性を秘めた戦争である。国際政治アナリスト・伊藤貫氏は、この戦争が国際政治の根本構造を変える3つの理由を指摘している。

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第2次大戦後の米国覇権が崩壊する3つの地域

アメリカは戦後、ヨーロッパ・中東・東アジアの3地域を支配することで世界覇権を維持してきた。ジョージ・ケナンやマーシャル国務長官が設計したこの構想は、3地域のうち1つでも失えば世界支配が崩れるという前提に立っている。

しかし現在、その3地域すべてでアメリカの支配力は急速に失われつつある。ウクライナ戦争では事実上撤退し、NATO解体すら口にするトランプ大統領。中東ではイラン戦争を仕掛けたことで逆にアラブ諸国の信頼を失った。東アジアでは中国の通常戦力と核戦力が急速に拡大し、アメリカは追いつけない状況にある。伊藤氏はこれを「三戦域における三連敗」と表現している。

三極構造から七極構造へ向かう国際政治

過去500年の歴史を見ると、国際政治の地殻変動は必ず各世紀の前半に起きてきた。16世紀のハプスブルク帝国の興亡、17世紀のフランス帝国の隆盛、19世紀初頭のナポレオン戦争、20世紀の二度の世界大戦——いずれも世紀前半の出来事だ。

21世紀も例外ではない。現在はアメリカ・中国・ロシアの三極構造だが、イラン戦争を契機にイランが核保有国となり、インドが南アジアの覇権国に成長し、ドイツが核武装を視野に軍備を強化し、日本も自主防衛を選択すれば、20年後の世界は七極構造になっている可能性がある。

なぜアメリカは不必要な戦争を始めたのか

イラン戦争はアメリカとイスラエルが仕掛けた戦争である。しかもアメリカはイランと核交渉中に突然空爆を行うという信義に反する行動を取った。なぜこれほど愚かな選択をしたのか。

答えはアメリカ国内政治の腐敗にある。1980年代のレーガン政権以降のネオリベラリズム導入により貧富の格差は爆発的に拡大した。クリントン政権からトランプ第一次政権まで、財務長官は民主党・共和党を問わずゴールドマン・サックス出身者が占めてきた。

決定打となったのが501cによる匿名・無制限の政治献金制度である。アメリカの大富豪は、何百億円でも匿名で有力政治家に資金を流せる。この制度を最大限活用しているのがイスラエルロビーだ。

イスラエルロビーがアメリカ外交を支配する構造

イスラエルロビーはアメリカの金融・マスコミ・シンクタンク・政治資金ネットワークの4つを掌握している。2024年の大統領選で「ジューズ・フォー・トランプ」を組織したウィトコフ氏は、トランプを当選させる目的を公然と語っていた。ガザ支配の継続と、アメリカとイランの戦争実現——この2つである。

2024年12月28日、ネタニヤフ首相がトランプの自宅マールアラーゴを訪問した直後から、トランプの対イラン姿勢は急変した。それまで「イランとの戦争はアメリカの国益にならない」と語っていた人物が、突如戦争支持に転じたのである。

イラン戦争を特異な戦争にする3つの構造

今回のイラン戦争には他の戦争と異なる3つの特徴がある。

第1は非対称戦争(Asymmetric Warfare)。軍事予算でアメリカの半分しかないイランは、安価なドローンと安価なミサイルを大量投入し、超高価な迎撃ミサイルを消耗させる戦略を取った。1発数百万円のドローンを撃ち落とすために1発数十億円の迎撃ミサイルを使う側が、経済的に消耗していく構造だ。

第2は相互確証破壊(MAD)の成立。イランはホルムズ海峡封鎖能力に加え、サウジアラビアやUAEなど湾岸諸国の石油・ガス・電力・海水淡水化施設をすべて破壊する能力を持つ。アメリカが本気でイランを潰しに行けば、中東経済全体が崩壊するという抑止構造が完成した。

第3は防御優位(Defense Superiority)の戦争形態。安価な飛び道具を大量に持つ側が防衛で圧倒的に有利になる戦争であり、攻撃側が消耗するほど不利になる構造である。

殉教の文化と文明戦争としての側面

ロシア・ベトナム・アフガニスタン・イランに共通するのは「カルチャー・オブ・マーターダム」、すなわち祖国や信念のために命を捧げる文化である。イラン国民のうち、宗教指導者による統治に満足していない層さえも、今回の戦争では志願兵として続々と参戦している。これはペルシャ文明そのものを守るという、文明戦争の側面を持っている。

最大の受益者は中国とロシア、最大の犠牲者は日本と台湾

この戦争が長引けば長引くほど、最大の利益を得るのは中国とロシアである。アメリカは保有する高価な迎撃ミサイル(ペトリオット、THAAD)をすでに半分以上消費したと言われ、東アジアでの戦争遂行能力を著しく失った。

2029年から2030年頃には、アメリカは中国との戦争を回避し、西半球のみを支配する「フォートレス・アメリカ(要塞国家)」へ撤退する可能性が高い。その時、最も悲惨な状況に置かれるのは台湾と日本である。自主的な核抑止力を持たない日本は、中国の勢力圏に吸収されるか、ドイツのように独自の安全保障を構築するかの選択を迫られることになる。

イラン戦争が引き起こす国際秩序の地殻変動を象徴する地政学的イメージ。中東を中心とした世界地図と覇権国家の象徴が描かれた編集系イラスト

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